ダブル不倫2(ダブル不倫の複雑化要因)

ダブル不倫は不倫関係が2つ重なるためそう呼ばれるのですが、単純にシングル不倫が2つあるというものではりません。不倫関係にある二人がそれぞれ配偶者を持ち、それぞれ別の不貞行為行うと同時に、相手方が行った不貞行為にも関与しているという点で、重なり合いを持っています。この重なり合いがあることによって問題が複雑化します。

佐藤家における不倫問題と山田家における不倫問題は、本来的には全く別の問題であり、そのため被害者同士は何の関係性もありませんが、加害者同士が密接な関係性を持つため、事件の重なり合いが生じ、問題を複雑化するのです。また、一方の加害者と被害者、他方の加害者と被害者も密接な関係性をもち、これにより問題がさらに複雑化することになります。

以下はダブル不倫を複雑化させる主な要因についての説明です。便宜上、佐藤一郎と佐藤春子、山田太郎と山田秋子がそれぞれ夫婦であり、佐藤一郎と山田秋子が不倫交際をした、という設定になっています。

不倫交際相手に対する慰謝料請求権の事実上の関連性

不貞行為がなされると、慰謝料請求は配偶者と不倫交際相手に対してなされますが、ダブル不倫の場合はこの不倫交際相手に対する慰謝料請求権が、基本的に、2つ生じることになります。基本的にという理由は、一方の婚姻関係についてはすでに破綻しており、慰謝料請求権が生じない場合もあるからです。

ダブル不倫の場合は、シングル不倫の場合と異なり、不倫交際をした男女それぞれに配偶者がいるため、男女それぞれにおいて、配偶者に対する不貞行為を行っていることになります。佐藤家においても山田家においても不貞行為がなされているということになります。そして各被害配偶者は不倫交際相手に対して慰謝料請求が可能なので、不倫交際相手に対する慰謝料請求権が2つ生じることになるのです。

そして、この2つの慰謝料請求権は、本来的には、全く別の請求権です。たしかに、慰謝料請求権が生じた原因である不倫交際した者同士の間には関係性はありますが、不倫交際の被害者である佐藤春子と山田太郎の間には何の関係性もなく、全く別の被害を救済するために発生しているものなのです。この請求権は被害者である関係性を持たない佐藤春子と山田一郎が持つ請求権なのです。したがって、2つの慰謝料請求権は相互に干渉し合うものではなく、他方の請求権の内容がどのようなものであろうと、また、その存在があろうとなかろうと、他方による影響を受けることなく、自由に行使することができるものです。このような理論上の建前に即して考えると、シングル不倫の場合と同様に考えることができ、不倫交際が発覚し、不倫交際相手に慰謝料請求をしたいと思うのであれば、何の躊躇もなく、請求すればよいことになります。

しかし、実際上は、ダブル不倫において、不倫交際相手に慰謝料請求をするうえで、このような自由な請求がなされることはむしろ少数です。双方の家庭において不倫交際が発覚している場合は、四者による協議がなされて清算されることも多いです。この場合の清算は、不倫交際の被害者である佐藤春子・山田太郎が持つ本来的には全く関連性を持たない権利を、契約により相殺しているということになります。また、不用意に不倫交際相手に慰謝料請求すると、それが原因となり、相手方家庭に不倫交際の事実が発覚してしまい、自身の配偶者が慰謝料請求を受けることになるので、そのような結果を避けるために、慰謝料請求を躊躇してしまうこともあります。

このように、本来的には全く別の権利である、2つの慰謝料請求権が、事実上影響し合う関係にあるため、様々な思惑が働き、ダブル不倫の問題を複雑化してしまうのです。

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加害者が2つの損害賠償事件の加害者となること

佐藤一郎と山田秋子が不倫交際した事実においては、佐藤一郎は佐藤春子に対して不貞行為を行い、山田秋子は山田太郎に対して不貞行為を行っています。そして、これらは、全く別の事件です。不貞行為が損害賠償請求の理由となる根拠は婚姻家族生活における平穏を害するからであり、婚姻家族生活は各家庭単位であるので、事件としても各家庭により別物となるのです。他方で、佐藤一郎は山田秋子が行った不貞行為について、また、山田秋子は佐藤一郎が行った不貞行為について、外部から協力する形で関与しています。そして、このような不貞行為に関与する行為も違法行為とされ、慰謝料請求の対象となります。

このように、ダブル不倫では、不倫交際という1つの違法行為をなすことにより、2つの事件の加害者となります。通常は、1つの行為は1つの違法行為となり、1つの損害賠償事件の加害者となるため、その事件の被害者との関係を考えれば事足りますが、不倫交際では、このような単純な関係ではなくなります。不倫交際相手の配偶者を被害者とする事件について、その慰謝料を支払い清算したとしても、不倫交際にまつわる法律関係がすべて清算されるものではなく、自身の配偶者を被害者とする事件の関係はそのまま残ることになります。

そのため、一方の事件について示談をするに際しても、他方の事件との関係を考慮に入れなければならなくなり、ダブル不倫の問題を複雑化してしまいます。

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加害配偶者と被害配偶者が利害関係の共有

不倫交際が発覚しても離婚に至らない場合には、被害配偶者から加害配偶者に対して慰謝料請求がなされることはあまりありません。佐藤夫婦のケースにおいて、離婚に至らなければ、佐藤春子から佐藤一郎に対して慰謝料請求がなされることはあまりないということです。

離婚しないかぎり、同じ佐藤家内でのお金の動きになり、生計を共にすることから、実際上の意味がなく、婚姻関係の修復を図るうえでも、慰謝料請求をすることは好ましくないという判断から、被害配偶者から加害配偶者に対する慰謝料請求がなされない理由になると思われます。また、このような価値判断は、もう一方の家庭における被害者つまり山田太郎から佐藤一郎に対して慰謝料請求をされることを避けようとする動機となります。さらに、佐藤春子が山田秋子に対して慰謝料請求をしないつもりであったとしても、山田太郎から佐藤一郎に対して慰謝料請求がなされると、佐藤春子は山田秋子に対して慰謝料を請求しようとするでしょう。

このように、不倫交際の結果離婚に至らない場合は、被害配偶者と加害配偶者が利害関係を共にし、協働して家庭内からの支出を防ぐ行動に出ることが通常なのですが、こうした行動は法律が本来予定している姿とはずれる面があり、そのため、ダブル不倫の問題を複雑にしてしまいます。つまり、不貞行為は婚姻家族生活の平穏を害するために違法行為とされるのですが、婚姻家族生活は家庭内の問題であり、不貞行為によって婚姻家族生活を害した最大の責任者は加害配偶者です。分かりやすく言えば、不貞行為とは夫婦間における性的な裏切り行為であり、裏切り行為を行える者は、加害配偶者のみであって、不倫交際相手は、被害配偶者とは無関係な「通りすがりの人物」にすぎません。このことは、不倫交際の結果離婚に至ろうが至るまいが関係の無いことです。そのため、法的には、不倫交際相手の責任は、あくまで「副次的」とされ、不倫の問題は家庭内で解決することが基本とされます。

しかし、現実には、被害配偶者個人の被害の問題が家計の問題とすり替えられるため、副次的であるはずの不倫交際相手に対して、過大な責任を負担させようとする傾向が生じることになります。法律はこのような責任バランスを予定していないため、徒に問題解決を遅らせることにつながってしまうのです。

なお、上記「不倫交際相手に対する慰謝料請求権が2つ生じ、事実上の関連性を持つ。」における「事実上の関連性」をもたらす主要な要因が「離婚しない場合に、加害配偶者と被害配偶者が利害関係を共にする。」ということになります。本来全く別の2つの請求権が、「生計を共にする」という被害配偶者と加害配偶者の事実上の関係性によって、当事者間の債権・債務を相殺するような関係にさせてしまうのです。

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夫婦ごとに離婚に至る・至らない場合があること

佐藤一郎と山田秋子の不倫交際が両家庭において発覚した場合を考えてみます。このような場合に最もことを穏便におさめる方法は、四者間で協議し、四者間に錯綜する全ての慰謝料請求権を放棄し、法律問題を清算してしまい、後は事実上の問題、つまり、いかに努力して今後の夫婦関係の修復を図っていくか、という課題に全ての問題を収束してしまう方法です。この結果は、「不倫は結局は夫婦の問題」という原則に戻ることを意味し、非常に優れた問題解決の方法といえるでしょう。

ただし、このような方法が可能となるためには、不倫交際によって各家庭にもたらされた被害が等しいと言えてはじめて成り立つ方法といえます。佐藤家においても山田家においても、幸いにも離婚を決意するに至らず、また、それぞれ今後の努力によって夫婦関係の修復をしていこうという意欲がある場合であれば、佐藤家・山田家双方の協議によって、不倫交際がもたらした騒動を収めることができるでしょう。また、双方の家庭で離婚が成立した場合も、全ての問題が純粋に個人の問題に還元されるので、問題の複雑化につながりません。

しかし、佐藤家は離婚に至らずに済んだが、山田家は離婚に至ってしまった場合は、両家の間のバランスが崩れてしまうので、四者による協議によって、全ての慰謝料請求権を清算してしまうことは望めません。一般に、離婚に至ると慰謝料額は大幅に増額するので、山田太郎から佐藤一郎への請求額は佐藤春子から山田秋子に対する請求額と比較して、相当に多額となります。そうなると、離婚をしないため佐藤一郎と利害を共にする佐藤春子は慰謝料請求に対して消極的になり、また、佐藤一郎が受ける請求額とのバランスをとろうとするため、山田秋子に対して無理な請求額を提示することにつながりやすいです。

しかも、実際上は、不倫交際発覚と同時に離婚が決意されることは稀であり、ある程度熟慮期間を経て決意に至るので、慰謝料請求をすることによる離婚しない家庭における収支は、予測できないといえるでしょう。そこで、ダブル不倫で双方の家庭に不倫交際の事実が発覚した場合は、早急に四者による協議を行い、少なくとも、相手家庭に対して、経済的負担を負わせない旨の約束を取り付け、離婚至った場合の慰謝料増加分については、加害配偶者から支払を受けることにより、被害者の救済を図るような措置をなすべきといえます。また、このような措置を施す場合にあっても、加害配偶者が慰謝料を支払い、その後に不倫交際相手に対して求償権を行使したのでは、結局、金銭支払いの請求者と名目が変わるだけで、離婚しない側の家庭に対して経済的負担を迫ることになるので、求償権を放棄する確約をとっておくべきといえます。

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不倫交際発覚時期が各夫婦によってずれること

佐藤一郎と山田秋子の不倫交際において、佐藤春子にのみ不倫交際の事実が発覚し、山田太郎には発覚しない、つまり一方の家庭のみにおいて不倫交際の事実が発覚するケースもよくあります。また、最終的には両家庭において発覚するとしても、同時に発覚することは稀であり、不倫交際発覚時期は多かれ少なかれずれるものです。

このような「ずれ」によって、もたらされるものは、紛争の再発です。上の例で、佐藤春子と山田秋子の間に示談が成立し、一応紛争の解決が図られたとしても、後々山田太郎に発覚すると、同一の事実関係に関する紛争が形を変えて両家庭間で湧き上がることになります。たしかに、紛争の当事者は異なりますが、利害関係を共にする関係にある異なる当事者による争いであるため、事実上の争いに巻き込まれることになります。不倫交際の事実が山田太郎に発覚すると、山田太郎から佐藤一郎に対して、慰謝料請求がなされることにつながります。山田秋子によって支払われた金額と同程度の金額を請求され、結果的に、「行って来い」の関係となるのであればよいですが、被害状況によっては、請求額が佐藤春子の受領した金額を上回ることもありえます。

こうなると、示談によって一応得られた安らぎの効果は消えうせることになります。むしろ、このようなことが起こりうることを想像すると、示談によっても、心の安定をうることは難しいといった方がよいでしょう。しかも、不法行為の損害賠償請求権の時効は、「損害及び加害者」を知った時から進行するので、山田太郎が不倫交際の事実を知り3年経過するか、最後の不貞行為がなされた時から20年経過するまで、示談がもたらす効果を十分に得ることが難しいということになります。このように、不倫交際発覚時期がずれることで、ダブル不倫の問題を安定的に解決すること難しくし、問題を複雑化してしまうのです。

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