ダブル不倫

不倫交際した当事者双方が既婚者である不倫を、「ダブル不倫」といいます。不倫交際した当事者の一方のみが既婚者である場合と比較して、法律関係が、非常に複雑になります。不倫交際が発覚し、それがダブル不倫であった場合、問題を効率的に解決するために、まずは、ダブル不倫の構造を知り、その特有の問題点を把握しましょう。

ダブル不倫の複雑な関係

ダブル不倫では、登場人物が4人となり、同じ立場にある者が、こちら側とあちら側に1人ずついます。そのためダブル不倫で慰謝料請求しようとする場合、請求しようとする者にとって生計を同じくする者が、相手方から請求を受ける立場になります。そして、請求する行為が、相手方家族に不倫交際の事実が発覚するきっかけとなりえ、予想外に、問題が複雑化し、解決までに時間を要することになりかねません。また、請求したものの、金銭の行き来をもたらすだけの結果ともなりやすいです。

以下では、そうしたダブル不倫における諸問題について記しますが、便宜上登場人物に仮名を付け、佐藤一郎と佐藤春子が婚姻関係にあり、また山田太郎と山田秋子が婚姻関係にあり、佐藤一郎と山田秋子が不倫交際をしたという前提で、考えていきます。

法律上問題となる関係は、1不倫交際の相手方の配偶者と加害配偶者の関係、つまり被害者である佐藤春子・山田太郎と加害者である佐藤一郎・山田秋子との関係、2加害配偶者と被害配偶者の関係つまり佐藤一郎と佐藤春子、山田太郎と山田秋子の関係、3不倫交際相手同士の関係つまり佐藤一郎と山田秋子の関係、です。

ダブル不倫の問題が複雑化する主な要因は次のとおりです。
1、不倫交際相手に対する慰謝料請求権が事実上の関連性を持つ。
2、加害者が同時に2つの損害賠償事件の加害者となる。
3、離婚しない場合に、加害配偶者と被害配偶者が利害関係を共にする。
4、各夫婦ごとに離婚に至る場合とそうならない場合が生じる。
5、不倫交際発覚時期が各夫婦によってずれる場合がある。

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不倫交際した当事者の片方のみが既婚者である場合

ダブル不倫を見る前に、不倫交際した当事者の片方のみが既婚者である場合の不倫(以下、便宜上「シングル不倫」と言います。)を、簡単に見てみます。

X男がY女と不倫交際し、X男にはA女という妻がいるとします。この場合に問題となりうる法律関係は、1X男とA女の離婚及びそれにまつわる財産給付(慰謝料は除く)、2A女からX男への慰謝料請求、3A女からY女への慰謝料請求、4X男Y女間の求償請求、5X男Y女間に、交際中に何らかの違法行為があれば、それについての損害賠償請求、ということになります。

A女はX男とY女両方に対して、慰謝料請求をすることができます。A女はX男・Y女それぞれに対して慰謝料請求権を持ち、その2つの請求権の関係は、「不真正連帯債務」と言われる関係にあります。不倫交際は、交際相手という不法行為への加担者がいなければ行えないので、加害配偶者が行った不貞行為へ交際相手が協力し、2人が共同して不法行為を行ったと考えられることになります。不倫は、日本では犯罪とされていませんが、共犯のようなイメージでとらえると分かりやすいと思います。このように2人で共同して行った不法行為を「共同不法行為」と言いますが、共同不法行為によって生じた各行為者が負担する債務は、その関連性の深さから、「不真正連帯債務」とされ、各行為者に対して、それぞれが負う債務総額を請求できるものとされます。

A女はX男に対して慰謝料の請求をすべきですが、両者が離婚しない場合は、A女は、Y女のみに対して、慰謝料を請求することが多いです。ちなみに、A女がY女のみに請求する場合は、X男に請求する場合と比較して、半分程度の金額となります。

Y女が慰謝料を支払うと、Y女は、X男との責任割合に応じて、X男に対して、求償請求をすることができます。

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不倫交際の被害者と不倫交際相手の関係

不倫交際の被害者と不倫交際相手の関係、上の例で言えば、山田太郎と佐藤一郎との関係及び佐藤春子と山田秋子との関係となります。

この関係は、不貞行為の被害者、つまり婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害された者と、不貞行為に加担した者との関係です。ここで不貞行為に「加担」した者と言いましたが、これは、不貞行為が本来、貞操義務に違反する行為を指し、貞操義務を負う者が配偶者のみであることからすると、不倫交際の交際相手自身は不貞行為を直接行うことはできないことになり、あくまで、加害配偶者の行為に外部から協力した、つまり「加担」したということになる、ということです。

不貞行為に加担した不倫交際相手は、被害配偶者に対して、民法709条・719条に基づいて、不法行為の損害賠償責任を負います。精神的苦痛に対しての賠償なので、慰謝料支払義務を負うことになります。

そして、ダブル不倫においては、シングル不倫で被害配偶者が不倫交際相手に対して慰謝料を請求する関係が、向かい合う形で、2つ存在することになります。山田太郎は佐藤一郎に対して、佐藤春子は山田秋子に対して、それぞれ慰謝料請求権を有することになります。

そうすると、両家ともに離婚しなかった場合には、基本的に夫婦は家計を共にしているので、佐藤家・山田家の収入・支出は、損害賠償債権が相殺される関係となり、プラス・マイナスゼロということになりそうです。しかし、例えば、佐藤家はもともと婚姻共同生活の平和がかなり乱れていたのに対して、山田家は表面上平和そのものであった場合には、損害額が山田家の方が大きいことになります。そうであれば、完全に相殺されたような関係とはならないことになります。また、不倫交際相手同士の間でどちらが主導的役割を果たしたか等により責任割合が決まりますが、後で述べる「求償権」を行使した後のお金の収支を考えると、やはり、完全に相殺されたような関係とはなりません。

なお、離婚しない限り、夫婦は家計を共にすると言いましたが、厳密に言えば、慰謝料として取得した金銭は、取得した者の特有財産となり、夫婦の共有財産とはなりません。婚姻中から、このような割り切りをされる場合は、シングル不倫の場合と同じようなイメージで考えることができます。

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加害配偶者と被害配偶者の関係

加害配偶者と被害配偶者の関係、上の例で言えば、佐藤一郎と佐藤春子、山田太郎と山田秋子の関係となります。

この関係で特有の問題点は、離婚です。離婚に伴い、「財産分与」、子がいる場合は、「親権」「面会交流」「養育費」「慰謝料」が問題となります。通常、不貞行為が一度のみであった場合には、裁判離婚は認められません。裁判離婚が認められるためには、継続的な不貞行為があり、夫婦関係の修復が困難であると考えられる場合でなければならないとされています。不貞行為を理由とする慰謝料請求が、一度のみの不貞行為であっても認められることと異なります。これは、離婚が身分上の問題であり、お金の問題である慰謝料請求に比べ、重大性が強くより慎重な判断が要求されることや、離婚はするかしないかであり、金額のように幅をもった調整ができないことが理由と考えられます。

慰謝料請求については、通常、離婚を前提としない場合には、夫婦間での請求はなされません。しかし、再度、不倫がなされた場合に備えて、夫婦間で、何らかの金銭の支払いに関する制約がなされることはあります。もっとも、夫婦間の契約はいつでも取り消せるのとされています(民法754条)。ただし、約束事を文書にして残すことにより、今後の不貞行為について、事実上の抑止効果を持ちます。また、婚姻関係が破綻した後には、取り消すことができなくなります。なお、離婚しない場合であっても、夫婦間で慰謝料の請求をすることは当然可能であり、この場合には、取得した金銭は、被害配偶者の特有財産となり、共有財産とはなりません。また、一般的に、不倫交際の相手方に対して請求する場合より、加害配偶者に請求する場合の方が、認容される慰謝料額は大きくなります。

加害配偶者と被害配偶者の関係は各家庭内部の問題となるため、ダブル不倫に特有の問題点はありませんが、片方の夫婦のみが離婚した場合には、問題を複雑化します。

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不倫交際相手同士の関係

不倫交際相手同士の関係、上の例で言えば佐藤一郎と山田秋子の関係では、主に、求償権(請求)が問題となります。

求償権とは、連帯債務や不真正連帯債務などにおいて、他の債務者が負担すべき債務部分について弁済をなした者が、その債務者に対して、その債務者が負担すべき金額の支払いを請求できる権利です。各債務者が負担すべき金額は、責任割合によって決せられます。責任割合は、基本的に、加害配偶者が3分の2、不倫交際相手が3分の1とされ、後は個別事情により修正が図られるとされます。例えば、佐藤春子が、山田秋子に対して、150万円を請求し、支払われたとします。この場合、本来であれば、加害配偶者である佐藤一郎が100万円については負担しなければならないところ、山田秋子がその分まで支払ったということになります。そこで、山田秋子は佐藤一郎に対して、100万円の求償請求をすることができることになります。この例で、山田秋子が、常に主導的に不倫交際に関わっていたとすると、山田秋子の求償可能な金額が75万円となる場合もあります。

ダブル不倫では、このような関係が対面する形で2つあることになります。したがって、もう一方の被害配偶者である山田太郎が、佐藤一郎に対して、同じように150万円請求したとすると、佐藤一郎は、山田秋子に対して、100万円の求償請求ができることになります。

ここで、責任割合について、佐藤春子が請求した場合は、佐藤一郎の責任が大きく、山田太郎が請求した場合は、山田秋子の責任割合が大きくなっていますが、これは、前述の通り、加害配偶者の方が重大な責任を負い、不貞行為への加担者に過ぎない不倫交際相手は、軽い責任を負うにすぎないということによるものです。したがって、一つの不倫交際に関する事実についての慰謝料請求であっても、その請求が誰によってなされているかによって、基本的な責任割合が異なり、どちらがより積極的であったかという点での責任を加味し、修正を加えたうえ、最終的な責任割合が決せられます。

不倫交際相手に慰謝料の請求をした場合、このような求償権が生じ、また、加害配偶者の方が、一般的に、責任割合が大きいため、家庭全体の収支としては、満足できるものではない事になります。先の例では、各家庭には、50万円しか残らないことになります。これは、本来、不倫交際相手の責任が副次的であり、最大の責任者である加害配偶者の法的な責任を、事実上、免除していることの結果であるため、仕方がない事なのですが、実際上は、求償権を放棄させる処置をとることも多いです。

他に求償権について注意すべきこととしては、求償権が支払った金額を基礎に生じるものであることから、自らが支払った金額が、慰謝料全体の中で、どの程度の割合を占めるものであるかについて、明確にしておく必要があるということです。そうしないと、他の債務者が、より多額な慰謝料を支払ったために、むしろ自分が求償義務を負担すべき立場に追い込まれる可能性があるということです。

また、ダブル不倫においては、加害配偶者は、2つの事件の加害者となっている、つまり、佐藤一郎は、佐藤春子との関係で不貞行為を行ったと同時に、山田太郎との関係で不貞行為に加担したということになります。したがって、配偶者である佐藤春子から慰謝料請求される可能性と、不倫交際の相手方の被害配偶者である山田太郎から慰謝料請求をされる可能性があることになります。その結果、山田秋子は2つの理由によって求償請求をされる可能性があることになります。

なお、不倫交際相手同士の関係においては他に、交際中に一方が他方に対して不法行為を行ったことがあればその損害賠償請求の問題、不法行為がない場合であっても手切れ金請求に関する問題が生じる余地があります。また、金銭の貸し借りがなされていたなど、相互に財産上の債権債務関係があったのであれば、それについて清算すべき問題があります。

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ダブル不倫における慰謝料請求上の注意点

ダブル不倫では、上記の「不倫交際の被害者と不倫交際相手の関係」「加害配偶者と被害配偶者の関係」「不倫交際相手同士の関係」が向き合う形で2つ存在することになるため、慰謝料請求をする際にも特有の問題が生じます。上の例で慰謝料請求権をもつ者は、佐藤春子と山田太郎ですが、便宜上、佐藤春子の慰謝料請求を中心に見てみます。

佐藤家が離婚しない場合には、通常、佐藤一郎の不倫交際相手である山田秋子に対してのみ、慰謝料を請求し、加害配偶者である佐藤一郎にはしないことがほとんどです。この場合、まずいえることは、慰謝料額が下がるということです。不倫交際相手の責任は副次的であり、また、離婚に至らなかったことにより損害が比較的少なく済んだためです。ただし、不真正連帯債務の効果により、損害額全部を各債務者の請求できるという問題は残ります。

慰謝料請求をする際に、相手方である山田秋子の山田家では不倫交際の事実が判明していない場合には、慰謝料請求の手段にも、相応の配慮を要することになります。その理由は、1、山田太郎は佐藤春子との関係では、全くの第三者であり、佐藤春子が山田秋子に対して抱く怨恨とは本来無関係であるので、山田太郎に被害が及ぶことを避けるべきこと、2、山田太郎に不倫交際の事実が判明してしまうと、山田太郎から佐藤一郎へ慰謝料請求がなされることにつながり、問題を複雑化するだけではなく、佐藤家から金銭が支出されることになり、山田秋子に対して、慰謝料請求をする実益がなくなること、です。したがって、内容証明により慰謝料請求をする際にも、山田太郎に不倫交際の事実が判明しないようにする工夫が必要となります。また、佐藤春子が山田秋子と示談をする場合にも、求償請求に関することや、後々、山田太郎に不倫交際の事実が判明した場合に備えた契約をしておく必要があります。

相手方である山田秋子の山田家でも不倫交際の事実が判明している場合には、交渉における配慮は比較的少なく済むでしょう。四者が集って協議することもあります。双方とも離婚しない場合は、佐藤春子も山田太郎もそれぞれ相手方に対する慰謝料請求権を放棄することで、示談とし、後はそれぞれの夫婦の問題とすることが一番簡明な方法といえるでしょう。不倫は、本来的に、夫婦の問題であることに沿った方法といえるでしょう。もっとも、このような方法は、両家の収支という視点で考えると、相殺されプラスマイナスゼロと思える状況であって、はじめてお互いが納得できる方法といえることになります。そうではない場合、例えば、実は山田太郎も不倫しており、秋子との関係はすでに崩壊寸前であったような場合には、それだけ山田太郎が被った損害は少ないことになりますので、山田太郎が請求できる金額はその分減少し、したがって「相殺されプラスマイナスゼロと思える状況」ではなくなることになります。

また、山田太郎・秋子夫妻のみが離婚する場合は「相殺されプラスマイナスゼロと思える状況」ではなくなる場合の典型といえます。不倫の結果離婚に至ると、一般的に、慰謝料額が大きく上がります。加害配偶者に対して300万円程度、不倫交際相手に対して150万円程度の請求がなされることが多いです。そうすると、離婚しない佐藤春子としては、山田秋子に対する慰謝料請求を躊躇することになります。ただし、山田太郎が離婚した場合には、加害配偶者である山田秋子に対してのみ請求し、佐藤一郎に対しては請求しない場合もあります。その場合には、山田秋子から佐藤一郎への求償請求が残ります。これと佐藤春子から山田秋子に対する請求との比較の問題となります。なおこの場合、佐藤春子から山田秋子に対して慰謝料請求をすると、佐藤一郎はそれに関する求償請求を受けることになります。

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