不倫慰謝料を請求しない手法

不倫交際が発覚すると、大変な精神的苦痛を被り、それに対する慰謝料請求を考えます。しかし、そもそも慰謝料請求は、引き起こされた混乱を収束するためのものです。混乱を収束し、元の生活に戻るために、不倫(不貞行為)の慰謝料を請求しない考え方もあります。

不倫の慰謝料請求をしないケース分類

不倫の慰謝料請求は、1、配偶者に対してと、2、不倫交際相手に対して行えます。また、不倫の結果、1、離婚に至る場合と、2、離婚に至らない場合があります。それぞれについて概観してみます。

離婚に至るが、配偶者に請求しない場合

通常、不倫交際を理由として離婚が成立すると、その有責配偶者に対して慰謝料の請求がなされます。離婚に至れば、もはや生計を共にしないからです。しかし、不倫に関する被害配偶者の方に、DV等他の有責事由があれば、有責性が相殺されて、互いに慰謝料請求をなしえないこともあります。また、離婚に伴う財産的給付については、財産分与を基準にして、その金額に慰謝料の趣旨が反映されているのであれば、他に慰謝料という名目で、支払われないこともあります。

離婚に至らず、配偶者に対して請求しない場合

通常、離婚に至らない場合には、配偶者に対しては、慰謝料の請求はなされません。夫婦といえどもその財産は本来別々に帰属し(夫婦別産制、民法762条)、慰謝料は特有財産となり、特有財産は離婚に至った場合にも、財産分与の対象とはなりません。また、慰謝料は不倫交際相手に対してより、加害配偶者に対して請求した方が、請求額が大きくなります。しかし、実際には、このケースの慰謝料請求がなされることは極めて稀です。主な理由としては、今後も同じ世帯の住人として生計を共にする関係であり、事実上利害関係を共にすること、夫婦間で慰謝料の請求をすると、より一層、壊れかけた婚姻家族生活の復旧が困難になることにあると思われます。

【民法762条】
1、夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産とする。
2、夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。

離婚に至るが、不倫交際相手(第三者)に請求しない場合

不倫交際の結果離婚に至った場合には、第三者に対して、慰謝料請求しないこともよくあります。代わりに、この場合には、加害配偶者に対して慰謝料請求がなされますが、不倫交際相手の責任はあくまで副次的であり、婚姻関係の破綻に対して責任を負うべきは加害配偶者なので、本来の筋にかなっていると思われます。離婚に至らない場合に、加害配偶者に対して慰謝料請求しない主な理由としてあげた「今後も同じ世帯の住人として生計を共にする関係であり、事実上利害関係を共にすること、夫婦間で慰謝料の請求をすると、より一層、壊れかけた婚姻家族生活の復旧が困難になること」という点について、離婚により、意味を持たなくなり、加害配偶者に慰謝料請求をする反射的効果として、不倫交際相手に対しては、慰謝料請求をしなくなるものと思われます。なお、この場合も「怨恨」の問題は別にあり、婚姻関係破綻についての「怨恨」が、不倫交際相手に向けられることも多く、この場合には、不倫交際相手への慰謝料請求がなされます。

離婚に至らないが、不倫交際相手(第三者)に請求しない場合

この場合が、「慰謝料請求をしない」ことを考えるうえで、中心的な問題となるケースで、通常は、誰に対しても慰謝料の請求をしない結果となります。

離婚に至らない場合には、「今後も同じ世帯の住人として生計を共にする関係であり、事実上利害関係を共にすること、夫婦間で慰謝料の請求をすると、より一層、壊れかけた婚姻家族生活の復旧が困難になること」を主な理由として、加害配偶者に対して、慰謝料請求がなされず、「怨恨」の矛先は不倫交際相手へと向かう結果、不倫交際相手に対して、厳しく責任追及がなされることが通常です。一般的に「不倫の慰謝料請求」といった場合、このようなケースを指すと言ってもよいでしょう。

それにも拘らず慰謝料請求をしない理由として考えられる点で重要なものは、加害配偶者との関係で、不倫交際相手に対して慰謝料請求をすると、婚姻家族生活の平穏の復旧が困難になること、婚姻家族生活の平穏をお金の問題とは切り離して捉えること、不倫はあくまでも夫婦間の問題であると考えること、にあると思われます。

不倫交際の被害に遭えば、その損害を回復するために、慰謝料請求をすることは当然の権利です。しかし、そもそもこの場合の損害は、婚姻家族生活の平穏を害されたことに基づくものであり、婚姻家族生活の平穏を取り戻すための手法には、金銭による賠償以外にもあることは確かです。その家族の事情によっては、金銭賠償を求めることにより、かえって家族の亀裂が深まる可能性もあるでしょう。このような場合には、慰謝料の請求をあえてしない考え方が重要となります。また、本来、不倫は夫婦の問題であり、夫婦にとって、不倫交際の相手方は「通りすがりの人」にすぎません。このような「通りすがりの人」に対する「怨恨」及びその反映としての金銭賠償にこだわるあまり、本来こだわるべき夫婦間の問題がないがしろにされ、夫婦間の問題の本質的な部分にメスが入らないこともありえます。ただ、あえてメスを入れない手法もあるでしょうが、その場合も、意識的になされる必要があるように思われます。

このような点から、あえて慰謝料請求をしない考え方にも、十分な理由があるように思います。

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不倫交際相手(第三者)に慰謝料を請求しない場合の注意点

不倫交際相手に慰謝料を請求しないことには、相応の意味がありますが、慰謝料請求が一般的になされることにも意味があり、それをしないことによる特有の注意点があります。

被害配偶者の立場での注意点

慰謝料請求がなされるのは、不倫交際により生じた大きな穴を、慰謝料という金銭によって埋めることにより、少しでも精神の安定を回復することを実質的な目的としているといえます。やはり金銭の力はあるもので、即効性のある治療法であるといえるでしょう。慰謝料を請求しない場合に、このような精神の治療・回復が速やかに・実効的になされるか、少々不安を覚えます。代替手段があればよいのですが、そうではない場合、被害感情が蓄積し、より大きなストレスと化す恐れもあります。

また、加害配偶者との関係上、婚姻共同生活の平穏を回復するために、やむを得ず慰謝料の請求をしない場合には、加害配偶者の意見を取り入れすぎた結果、不倫交際相手との示談契約が骨抜きになり、不倫交際が再発する素地を払しょくできず、結局離婚に至る可能性を残すことになります。

さらに、慰謝料請求には不倫交際相手に対する懲罰的な意味も込められています。慰謝料請求をしないことによって、不倫交際相手に深い反省を促すことができず、その人間性によっては、再度同じ行為を繰り返すことにつながる恐れを残します。

不倫交際相手に対して慰謝料請求をしない解決手法は、一つの素晴らしい考え方ですが、上に述べたような注意点があることを念頭に置いたうえで、ご決断されると、より効果的な解決がなされるはずです。

不倫交際相手の立場での注意点

不倫交際相手は、通常、50万円から200万円程度の慰謝料債務を負担すべき立場にありますが、被害配偶者の厚意により、慰謝料債務の負担を免れる場合もあります。このような場合には、被害配偶者の厚意を決して裏切らぬようにするべきことは当然のことです。

ただし、1つだけ注意すべきことは、ごく稀な例ですが、被害配偶者が、その怒りや哀しみがあまりに深く、金銭の支払いによって示談とすることに納得していない場合があるということです。つまり、金銭の支払いを超える社会的制裁を、不倫交際相手に課すことを考えているということです。例えば、不倫交際相手の勤務先に不倫交際の事実を報告し、転籍や退職に追い込むことを、考えている場合もあります。特に、不倫交際が社内不倫であった場合には、注意が必要です。

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慰謝料請求をしなかった場合の法的効果

「慰謝料の請求をしない」ということは、1つの意思表示であり、法的には、「債権を放棄する」あるいは「債務を免除する」という法律効果が生じます。これによって、「慰謝料を請求しない」と伝えられた加害配偶者または不倫交際相手は、慰謝料支払債務から免れ、被害配偶者はその者に対する慰謝料請求ができなくなります。

ただし、加害配偶者・不倫交際相手と被害配偶者の関係は「不真正連帯債務」といわれる関係にあり、被害配偶者は慰謝料額全額を各加害者に対して請求できることが原則であるとされています。また、不真正連帯債務関係では、各当事者の生じた事由は相対的な効力を有するにとどまるとされます。そのため、被害配偶者が加害配偶者に対する請求権を放棄したとしても、そのことによって不倫交際相手に対する請求権は影響を受けず、不倫交際相手に対しては、慰謝料額全額を請求できるということになります。

なお、慰謝料の請求はしたものの、相手方が支払わないため放置してあった場合は、黙示的に「慰謝料を請求しない」と意思表示されたことにはならず、時効の問題になり、「損害」及び「加害者」を知った時から3年経過した時、又は、行為の時から20年経過して時に、請求権が時効消滅します。

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示談の際の注意点

被害者側の注意点

「不倫交際相手(第三者)に慰謝料を請求しない場合の注意点」で述べたように、離婚に至らなかった時に不倫交際相手に対して債務の免除をすると、後々思わぬ形で、2次被害ともいえる新たな苦痛を被る危険性があります。不倫交際相手によって背信行為がなされる可能性は常にあるので、示談の際には、そのような事態に備えておく必要があります。

具体的には、通常は示談の本質と矛盾するために利用しない方法ですが、接触禁止の約束に違反した場合には、示談契約を解除できる特約を設けておく方法も1つの方法です。また、完全に請求権を放棄してしまうのではなく、請求権は残したうえで、一定期間支払いを猶予したり、接触禁止の約束に違反することを条件することもできます。このような方法によれば、不倫交際相手に対して、抑止的効果を持つので、完全に請求権を放棄する場合に比べて、精神の安定を回復しやすくなるのではないかと思います。

加害者側の注意点

加害者側が債務の免除を受けたとしても、不真正連帯債務の効果で、他方の加害者に対して慰謝料全額の請求をされると、加害者間の責任割合に応じて、慰謝料の支払いをした加害者から金銭の請求を受ける可能性が残ることになります。このような事態を避けるためには、慰謝料の総額がいくらであるのかを明確にし、また、他方加害者に対して慰謝料の請求をしない旨の言質をとっておく必要があります。不倫の慰謝料請求がもたらす法律関係は、意外に複雑なので、思わぬ法的効果が生じることがあります。そうした様々な事態を想定して、示談契約を締結することが重要です。

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