慰謝料を請求された場合の対応方法

不倫交際や婚約の不当破棄など慰謝料請求される理由について、身に覚えがある場合の対処方法について記します。

過去に不倫交際などの違法行為を行い、いわばその代償を払わねばならない時が来たということですが、人は誰しも過ちを犯すものなので、過去の事実について、速やかに、適切な措置をすることが重要となります。

最初にすべきこと

慰謝料を請求されると誰しもが混乱状態に陥ります。薄々わかっていた場合もあれば、青天の霹靂の場合もありますが、現実に慰謝料請求をされると、多くの不安が生じ、昨日までの日常とは違った感覚に陥ります。また、自らまいた種とはいえ、忙しい生活の中で、対応しなければならない案件を抱えることになり、精神的・肉体的な負担を負うことになります。

このような状態に陥ること自体は普通のことです。自分だけが特別なわけではありません。しかし、動揺の程度は人によって異なることが現実です。そこで、まずは、「気持ちを落ち着かせること」、これが非常に大切になります。なすべき措置の大まかな流れはほぼ決まっているので、「気持ちを落ち着かせた」たうえ、冷静に、適切な対応をすることが大切です。そうでないと、相手方の慰謝料請求の趣旨を誤解し、的外れな対応をしてしまうことになりかねません。場合によっては、詐欺まがいの請求に、金銭の支払いをしてしまうこともありえます。

まずは、「気持ちを落ち着けること」、月並みですが、これが非常に大切になります。そして、不倫交際や婚約の不当破棄は、いけないことであり、当然それに対する償いはすべきですが、すべき償いは事案に応じて、おおよその幅を考えることができます。加害者であっても、一定の主張は可能です。被害者側の不当な請求には、相応の対応をしなければなりません。なすべきことをきちんとなすことが大切になります。

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請求内容の分析

気持ちを落ち着かせた後にすべきことは、請求内容の分析です。

慰謝料請求は不法行為の損害賠償請求としてなされることがほとんどですが、不法行為の損害賠償請求権は、定められた要件をある人のある行為が充足すると、法律上当然に、その権利が発生するものです。逆に言えば、その要件を満たしていなければ、その請求権は否定されます。そこで、相手方の請求が慰謝料請求であるのなら、自らの行為がその要件を満たしているかを確かめる必要があります。不貞行為の慰謝料請求でよく問題となる要件は、「婚姻関係が破綻していなかったこと」「交際相手が既婚者であることを認識していたこと」ということです。また、婚約破棄では「婚約が成立していた」「婚約破棄に違法性・不当性があった」ということです。

相手方の請求に理由があることが分かった後にすべきことは、請求金額の妥当性です。慰謝料額には、厳密に言えば、相場といえるものは存在しませんが、その事案において考えられるおおよその金額幅というものはあります。相手方の請求額がその金額幅の中に納まっているものかどうか検討する必要があります。加害者といえども、全ての請求を受け入れなければならないものではありません。妥当・適切な賠償をしなければならないのです。妥当・適切が何であるのかの判断には難しい面もありますが、例えば、支払い可能な金額であることもその判断要素になります。慰謝料請求でよくみられる金額は「300万円」です。非常によくみられますが。300万円の慰謝料額が妥当といえる事案は、それほど多くありません。慰謝料額は言われているほど高いものではなく、最近は低額化の傾向があるとされています。

また、慰謝料の算定には、個別事情に応じて、増額する要素・減額する要素というものがあります。不貞行為でいえば、交際期間や婚姻期間が長ければそれだけ慰謝料額は増加し、短ければ減少します。実際上は、諸般の事情を考慮し、総合的に判断されますが、自身の事情や知りうる相手方の事情を勘案し、減額しうる事情を検討してみることも必要です。

次には、請求そのものの言下に含まれている意味をよく理解することです。例えば「平成25年4月1日までに、200万円支払え。支払わなければ裁判をする。」といった請求内容であっても、それが一切の妥協を許さないものなのか、交渉における最初の提示額なのか、によってその後にとるべき対応に差異が生じる場合もあります。これまでになされてきた相手方の言動なども、相手方が本当に言いたいことを知るために、参考になります。また、請求する側の立場に立って考えてみることも大切です。請求する側として一番困ることは、無視されることです。無視されたら裁判をすればいいと、強気に考えることもできますが、実際上、裁判となると、大変な時間や費用がかかってしまいます。裁判を望む人はいないと言っても過言ではないでしょう。できることなら、話合いにより早期に解決したいと考えています。しかし、他方で多くの憤りを抱え、加害者に対して、できる限り大きな負担を課したいとも考えています。一見すると単純なように見える加害者側からの請求内容には、実は、その背景に多くの感情が含まれているのです。冷静に、加害者側が抱える事情を把握するように努めることが大切です。

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内容証明で請求された場合

ある日突然内容証明郵便を受け取ると、異様な緊張感を覚えると思います。実際上、内容証明郵便は、受け取った者にそうした心理的影響を与える力があります。そして、その内容を見るとさらに大きな緊張感を覚え、動揺や混乱を引き起こします。過去に違法行為を行い、他人に被害を及ぼした以上、被害者側の気持ちがこもった文書によって、動揺や混乱を引き起こされることも仕方がないことであり、むしろ当然のことともいえます。

内容証明郵便にそのような効果がある理由は、その文書の体裁から、公的な請求であるかのように思えることが挙げられます。しかし、それは誤解であり、内容証明郵便は、私的な文書にすぎません。内容証明郵便は、その内容が日本郵便に保管される点で他の郵便物と異なるにすぎません。文書の体裁に惑わされ、その内容について冷静に把握することがおろそかにならないように気を付けねばなりません。

また、内容証明郵便による慰謝料請求でよくみられる内容として、「平成25年4月1日までに金300万円を下記の口座へお振込みください。お振込みなき場合は〇〇地方裁判所へ提訴いたします。」といったものがあります。このような請求には、言うまでもなく法的拘束力はありません。300万円の債権が成立しているわけではなく、期限までに支払わないからといって遅延損害金が生じるものでもありません。単に、相手方の希望が述べられているにすぎません。被害者から加害者に対する慰謝料債権が正式に成立するのは、当事者間で契約が成立した時と裁判により請求が確定した時だけです。また、諸般の事情から請求額を妥当と考え、早期解決のために、期限までの振込み請求に応じる考えを持ったとしても、示談契約書を交わすことなく、金銭を支払うことはやはり、非常識であると言えます。示談契約書への署名捺印と引き換えに金銭を支払い、今後、同じ案件について蒸し返されることがないように、書面という証拠を確保しておくことが必要です。

なお、内容証明による慰謝料請求の末尾に「平成25年5月10日までに、文書によって、回答をください。」といった記載が通常なされますが、この回答期限については、法的な意味はありません。したがって、期限までに回答をしないからといって、法的な意味で何らかの不利益な扱いがなされるわけではありません。ただし、一つの誠意として、回答期限は守るべきですし、その後の交渉がスムースに流れるようにするためにも必要なことです。もっとも、あまりにも短い期限が設定されており、回答をなすための準備が整わない場合もあります。その場合は、期限までに、回答が遅れる旨及び新たな回答期限を相手方に伝えておく必要があります。

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内容証明以外で請求された場合

慰謝料請求は常に内容証明によってされるものではありません。電話・メール・面会または内容証明以外の文書によって請求される場合も多いです。また、ある日突然裁判所から訴状が送られてくることもあります。裁判の被告になった場合については、一度、弁護士にご相談されたうえ、訴訟行為を弁護士に委任するか否かを決めることになります。ここではそれ以外の場合について、注意事項を記します。

電話・メール・面会または内容証明以外の文書によって請求される場合に、最も注意すべき事項は、その交渉過程を記録に残しておくことです。被害者は、大きな精神的苦痛を被っているので、感情的に高ぶり、時に常軌を逸した行動や要求をする場合もあります。加害者の立場としては、そうした行動をある程度甘受しなければならないと言えます。しかし、中には、恐喝まがいの請求方法がとられることもあります。そうした行為が全て犯罪となるものではありませんが、請求自体が適法なものであっても、その手段・方法が違法であれば、全体として違法となるので、場合によっては、警察などに相談する必要が生じます。その場合には証拠が必要となります。また、加害者にも当然、名誉やプライバシー権はあります。それらを侵害するような行為が許されるものではありません。例えば、勤務先に出向いて公表すると言ったようなことが言われることがありますが、勤務先は違法行為の当事者ではありませんので、このような行為は不当であり、場合によっては違法となるもので、民事責任が生じる余地があります。お互いが適切な手段・方法に則り交渉を進めるために、交渉過程を記録に残しておく必要があるのです。

電話・メール・面会または内容証明以外の文書によって請求される場合は交渉過程がルーズになりやすいので、回答期限については遵守し、少しでも被害者に対して誠意が伝わるようにしなければなりません。

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証拠との関係

不法行為としての慰謝料請求権は、不法行為の要件を満たすことによって、法律上認められるものです。不倫交際に関する慰謝料請求、婚約破棄に関する慰謝料請求において、まずもって重要な要件は、それぞれ「不貞行為」「婚約の成立」です。しかし、これらは過去の出来事なので、それ自体を再現することはできません。そこで、それらの事実はあったことを推認させる証拠によって証明される必要があります。はっきりと申し上げれば、法的には、証拠による裏づけがない事実は、存在しないことと同じになってしまいます。

そのようなことから、慰謝料請求をされた場合に、相手方がどのような証拠をもっているかによって、対応が変わる可能性が生じます。本来であれば、相手方が十分な証拠を持っていようがいまいが、自ら行った違法行為に対する責任は果たすべきです。しかし、相手方が証拠を持っていないことが分かっている場合には、不貞行為等の違法行為の存在そのものを否定し、全面的に慰謝料の支払いを拒否しうる可能性が生じることも事実です。このあたりのことは、慰謝料を請求された人の考え方により、対応方法が変わってきます。もっとも、請求する側も、証拠に関しては神経を使う所なので、手持ちの証拠によって、請求内容や、相手方に求める対応が異なってきます。また、証拠に関して明確な記載を避けることも非常に多いです。相手方が探偵社により作成された調査報告書などの動かぬ証拠を持っている場合は、その存在を示すことで、反論の余地を与えないようにし、早期解決を図る方法をとることもありますが、そのような証拠を持っている場合でも、必ずしも、その存在を示すとは限りません。相手方から送られた文書などから、証拠の有無や程度について推し量ることは、実際上はなかなか難しいです。

また、回答書の内容によっては、その内容自体が証拠になってしまいますので、いわば敵に塩を送ることがないように、回答書の内容については慎重な配慮が求められます。このことは、一定の範囲で慰謝料請求に応じる考えである場合であっても同様です。相手方が十分な証拠を持っていない場合に、安易に不貞行為等の違法行為の存在を認めると、相手方は証拠を得たことで、態度が豹変し、不相当な請求をしてくることもあるからです。そうなると、示談までに、必要以上に時間を要することになり、また、裁判に引き込まれる可能性も高まります。不貞行為などの違法な事実についてウソ偽りなく認め、誠心誠意謝罪することが本来の姿です。しかし、他方で、そのような本来とるべき行動をとることによって、かえって、問題が拡大することもあります。誠心誠意の対応と問題の早期収束の両立を図る視点が重要となります。

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示談・和解への道筋

正式に慰謝料請求された日が始まりであれば、示談、または裁判に至った場合には、判決が確定若しくは訴訟上の和解がなされた日が終結です。もっとも、慰謝料の支払いが分割払いとなれば、余波を残すことになりますが、これは、別の問題と割り切る必要があります。

慰謝料請求権などの損害賠償請求権の行使に限らず、金銭債権の行使に関しては、債権者つまり慰謝料を請求する側が行動を起こしてはじめて行使されるものです。したがって、債務者つまり慰謝料の支払いを請求される側としては、特に何もする必要はありません。なにも請求されないまま3年経過すれば時効になります。債務者側は、受け身に対応することが基本となります。もっとも、いつ請求されるか、家や勤務先に来られるのではないかなどの不安を解消するためなどに、債権者の行動がないにもかかわらず、債務者の側から慰謝料額を提示して、積極的に示談を申し入れることは可能です。

相手方から慰謝料の請求があったら、前述のように相手方の請求内容や相手方の要望を文書内容から把握します。そして、自らの信条や支払い能力などご自身の抱える事情を勘案して、請求に対して、「全面的に応諾する」「部分的に応諾する」「全面的に拒否する」のいずれかのうちから、基本的な方向性をきめます。もちろんここで決めたことは、その後の展開により、変わるものですが、一応決めておきます。決めた方向性に従い回答書を作成します。相手方とのやり取りは、誤解を避ける、あるいは交渉過程で不当・違法な行為がなされないように、文書を利用した方がよいです。全面的に応諾する場合は特に問題がないように思えますが、相手方によっては、さらに不相当な請求を上乗せしてくる場合もありますので、注意が必要です。

回答期限については遵守すべきです。回答期限そのものに法的な意味はありませんが、相手方に対する誠意の一部として、守るべきものです。回答期限までに、自身の考えを決めかねる場合は、その旨の回答をしておいた方がよいです。早期に示談するための基本といえるような事柄です。

示談に向かうためには、「部分的に応諾する」内容の回答となることが多いです。相手方との交渉における焦点は、通常は、慰謝料額となります。慰謝料額については、一応相場のようなものがありますので、その範囲で自ら支払い可能な金額を提示することになります。社会的にみて妥当であることが問題解決の本筋であり、本筋にしたがうことが誠意であると考えられます。社会的に妥当性に従うことにより、混乱をやわらげ、その場その場での適切な対応を可能にしてくれます。また交渉の展開は、社会的に妥当な範囲へ収束していきますので、一つ一つ対応が無駄にならず、早期の解決につながります。

慰謝料額が決した後は、その支払い期限や支払方法について決めなければなりません。その際には、多少の無理は余儀なくされるとしても、実現可能な範囲で決める必要があります。その場しのぎでは、結局支払いが滞り、新たな争いが生じ、かえって被害者に対し迷惑をかけることになります。また、不貞行為の場合であれば、「接触禁止」に関する取り決めなど、当事者間に今後起きうる事態を想定して、細部に至るまで決めておいた方がよいです。このような争いごとは当事者を大変に疲弊させるものなので、慰謝料額が決まると弛緩してしまいがちですが、慰謝料以外にも重要なことは多いです。示談は、過去の出来事を清算することを主な目的としますが、今後同種の行為が繰り返されたりするなど、新たな争いが起きることを予防することも目的としています。そのため、慰謝料の支払いに関すること以外にも十分な配慮をし、未来の争いを示談の時点で防ぐための工夫をしておく必要があります。

示談が成立し、細部に至るまで当事者間の取決めがなされたら、その内容を書面化しておくことをお勧めします。証拠がなければ、その事実は無いことと同じになってしまうからです。

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お金以外の大切なもの

不貞行為や婚約破棄が発覚し争いとなると、通常は、その争いはお金の問題に還元されます。お金は当事者双方にとって非常に大切なものなので、争いを激化し、長期化させる原因となりえます。

そして、争いの長期化は当事者の心身を疲弊させます。多くの犠牲が生じ、2次災害ともいえる事態に陥ります。また、裁判となると、多かれ少なかれ、当事者の名誉やプライバシーに対して影響を与えてしまいます。

お金は非常に大切なものですが、他の大切なものを守るために、一定の妥協をする姿勢を示し、裁判に至る前に、早期の示談をすることは、思った以上に利益の多いことであると思われます。

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